***

5/14
前へ
/14ページ
次へ
「お願いします。無理して笑わないでください」  痛いほどに力強く抱きしめられて、雨で冷えてしまった身体が急に熱を持つみたい。  抱きしめられた向こうに見える桜が、まるで泣いているみたいだったから、抑えていた何かが溢れる。 「もう見たくないんです。咲川さんが無理してるの」 「……そんなこと言ったって」  どうにもならないことってある。  社会人になれば無理して笑わなきゃならないこともある。  思ってもいないことを口に出すこともある。  嫌いな奴をおだてたり、自分を殺して下を向くこともある。  我慢することが増えていく。 「無理だよ、柳瀬くん」 「え?」 「社会人なんて、そんなもんだよ」  諦めている? 会社なんてそんなもんだって決めてしまった?
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加