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「桜を見ていたら弱気になっただけ。だから、大丈夫!」
言った瞬間にまたむなしい気持ちが蘇って、不意に零れた涙に驚いた。見られまいと慌てて後ろを向けば桜の幹。
何をしているんだろう。
太いそれを触りながら思う。
「咲川さん!」
雨に負けない声に、わたしは涙を拭って振り返る。
「柳瀬く――――」
ドンっと幹が音をたてる。
やけに柳瀬くんの顔が近くて、彼の突っ張った腕が気になって、なぜか動けない自分が不思議で。
やっと壁ドンという答えにたどり着く。
いや、これは桜ドン……そんな名称はどうでもいい。
「柳瀬くん?」
「お願いします。もっと自分を大切にしてください」
柳瀬くんはどうしてこんなに必死なんだろう。
わたしはどうして頑なにあんな最低会社にしがみついてるんだろう。
「わたしは会社を辞めるべきなの? 短大卒は根性がないって言われるんだろうな」
「だったら、一緒に辞めますか?」
「は!? 何言ってるの? 柳瀬くんが辞めてどうするのよ!!」
「そうすれば、咲川さんと辞めれば。短大卒が根性なしなんて言えなくなるから!」
「バカ! こんな短期で辞めたらこの先の就職なんて出来ないでしょ?」
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