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───トランスポーターグループが便宜上は不動産経営をしているのはメジャーな手法だ。
ただし廃マンションを利用していたヴェルグ・カイザーズとは異なり、ワイルドウイングは真っ当にマンション経営も行なっている。
ヒルズ・ダヴ。
平和の象徴を冠する七階建の白塗りのマンションは、ミラノ北部、メーダに位置している。
レオがここに来るのは初めてではないが、つい昨日向かった廃マンションに比べると驚くほどに手入れの込んだ内装だ。
白に統一された床、壁、天井、その全てに埃やシミのひとつもない。
それに加えて観葉植物や余計な電飾器具なども一切が取り払われている。
究極にシンプルだが、洗練されている。
それはこのマンションの経営者であるあの女の、徹底された合理主義な性格がよく表れている証拠だ。
大理石の床を叩くレオの革靴が小気味よい音を鳴らす。
エレベーターが運んでくれたのは六階までで、六階の廊下の最深部にある、非常階段とは別にあるもう一つの室内階段を目指す。
革靴の音がやんだ。
同じく大理石の上へ続く階段の前に、カードロック式のフェンスがある。
フェンスというよりも、鉄柵で行く手を阻むそれは牢屋のドアだ。
小綺麗な内装と重厚なブラッククロームのフェンスにはギャップがある。
フェンスの取っ手横のカードリーダーへ、レオは白塗りのカードを通す。
「ピピッ」という承認成功を伝える電子音と、「ガチャン」というロックが外れる金属の音。
グリス塗布まで良好なそのドアは、重厚ながら金属の摩擦音はなかった。
レオが身体を内側に入れてドアを閉めるとオートロックがかかる。
レオは階段を登る。
またも響く革靴の音。
最上階、七階のフロアへ。
寄棟屋根を伴うヒルズ・ダヴは、最上階のみ大きな一部屋で構成されている。
その一部屋こそが、あの女。
JVの自宅であり、ワイルドウイングのアジトだ。
短い廊下を抜け、白塗りの玄関ドアへ。
インターホンを押す。
返事はなかったが、代わりにドアノブからデッキボルトの外れる音が聞こえた。
レオは躊躇うことなく、その玄関ドアを開けた。
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