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そのドアを開けた途端、レオの鼓膜を揺らすギターの音。
やたらと防音設備の整った部屋だ、と思った。
南側の大きな天窓から差す麗らかな日差しに照らされるのは、彼女。
高いバーチェアに腰かけているのは、小柄な身長を少しでも誤魔化すためだろう。
「よう、JI。待たせたな」
「おお、レオナルド。誰がヤコブスハブン氷河だ」
止む、ギターの音。
JVは抱えている白いギターのボリュームノブを絞った。
昨日の彼女の様子を忘れてしまうほど、JVは穏やかな表情を浮かべている。
「レッチリか。アメリカ人は全員聞いてるって噂は本当だったらしいな」
「いいや、我輩はさほど好きではない。テクノポップのほうが好きだ」
「あ? じゃあなんでギターなんか弾いてんだ?」
「我輩の妹が幼い頃からジョン・フルシアンテの大ファンでな。弾けたら喜ぶかと思って昔から練習していたのである」
「ほう、アンタに妹が。聞かせたのか?」
「聞かせる前に生き別れた」
「……そうかい」
「まぁ我輩のことはいい。少し座って話そうではないか」
JVは椅子から飛び降り、ギターをスタンドに立てる。
次いでアンプのボリュームノブを絞り、スタンバイスイッチを切る。
部屋の隅にあるもう一つのバーチェアをレオの足元に起き、アンプの主電源スイッチを切って再び自分のチェアに飛び乗る。
立っていればレオの胸ほどまでしかない身長だが、椅子に座れば目線の高さは同じだ。
黒々とした大きな瞳がレオを見つめる。
「今日は天気がいいな。予報じゃ雨が降るとか聞いてたんだが」
「レオナルド」
「なんだ?」
「無駄な気を遣うことは非合理的である。貴様は天気の話をするためにここに来たわけではないだろう?」
「……まぁな」
表情は穏やかながら、鋭い言葉遣いだ。
組んだ脚に頬杖をつくJVのその様は、身体つきに見合わぬ年齢相応な妖艶さを持ち合わせている。
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