足が短い女

4/12
前へ
/43ページ
次へ
そのドアを開けた途端、レオの鼓膜を揺らすギターの音。 やたらと防音設備の整った部屋だ、と思った。 南側の大きな天窓から差す麗らかな日差しに照らされるのは、彼女。 高いバーチェアに腰かけているのは、小柄な身長を少しでも誤魔化すためだろう。 「よう、JI。待たせたな」 「おお、レオナルド。誰がヤコブスハブン氷河だ」 止む、ギターの音。 JVは抱えている白いギターのボリュームノブを絞った。 昨日の彼女の様子を忘れてしまうほど、JVは穏やかな表情を浮かべている。 「レッチリか。アメリカ人は全員聞いてるって噂は本当だったらしいな」 「いいや、我輩はさほど好きではない。テクノポップのほうが好きだ」 「あ? じゃあなんでギターなんか弾いてんだ?」 「我輩の妹が幼い頃からジョン・フルシアンテの大ファンでな。弾けたら喜ぶかと思って昔から練習していたのである」 「ほう、アンタに妹が。聞かせたのか?」 「聞かせる前に生き別れた」 「……そうかい」 「まぁ我輩のことはいい。少し座って話そうではないか」 JVは椅子から飛び降り、ギターをスタンドに立てる。 次いでアンプのボリュームノブを絞り、スタンバイスイッチを切る。 部屋の隅にあるもう一つのバーチェアをレオの足元に起き、アンプの主電源スイッチを切って再び自分のチェアに飛び乗る。 立っていればレオの胸ほどまでしかない身長だが、椅子に座れば目線の高さは同じだ。 黒々とした大きな瞳がレオを見つめる。 「今日は天気がいいな。予報じゃ雨が降るとか聞いてたんだが」 「レオナルド」 「なんだ?」 「無駄な気を遣うことは非合理的である。貴様は天気の話をするためにここに来たわけではないだろう?」 「……まぁな」 表情は穏やかながら、鋭い言葉遣いだ。 組んだ脚に頬杖をつくJVのその様は、身体つきに見合わぬ年齢相応な妖艶さを持ち合わせている。  
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加