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過去のない男
北欧の映画だ。
主役は、暴漢に襲われて記憶を無くした冴えない中年の男。
所持品も失い、自分の名前もわからぬまま、しみったれた小さな町で暮らしはじめる。
何もかも、名前すらも失っているのに、彼は絶望していないように見える。
記憶を取り戻そうとあがくこともなく、現実を受け入れ、名前も持たず、飄々と新たな人生を積み上げていく。
社会から取り残されながらもつつましく暮らす人々と出会い、助け合い、彼らの人生にエッセンスを加える。
観客を感動させる意図が見える演出は一切なく、名もない男の姿を淡々と描いている。
『CINEMAS』より
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私が初めて観たフィンランド映画です。
映画の世界にすっぽりとハマりこんで、主人公たちの傍らで眺めているような感覚でした。
フィンランドをよく知らない私から観れば、フィンランドには本当にこんな場所があり、こんな人たちも住んでいるのかと不思議な感じがします。
不思議で、おもしろい。
もしかしたら、海外の人が日本に感じる不思議さと似ているのかもしれません。
どんな事件が起ころうとも淡々と進む物語の中に、絶妙にニヤッと笑えるシーンがいくつかあります。
この繊細な“笑い”の感覚は日本人向きではないでしょうか。
アキ・カウリスマキ監督の映画は、前章で紹介したフランソワ・オゾン監督の映画とは、美形の俳優がほぼ出ない、という点において対照的です。
「“美形の出ない映画”を南野が観るのか」と疑われても仕方のないくらい美形好きを自認している私でも、「アキ・カウリスマキ監督の映画を好きだ」と言えば世間様にゆるされる気がします。
それは無表情で寡黙な俳優の演技を通して、フィンランドの社会問題を弱い立場の人の視点からしっかり描いているからです。
どこかノスタルジックな音楽をバックに、日本でも人気のある北欧家具や雑貨を散りばめ、冷静に飄々と時折笑いも交えながら―
Aki Kaurismaki(監督)(脚本)(2003)『過去のない男』[DVD],フィンランド:アミューズソフトエンタテインメント
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