桜の木と女の子と寂しがりやな少年

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 女の子が桜に向けて手を伸ばしていた。桜の花を取ろうとしていることに気付いて思わず声をかける。 「ダメだよ」  女の子は目を点にしてこちらを見た。しばらく黙ってそれから口を開く。 「おいしそう」  おいしそう?何のこと?桜が? 「だっておいしそうなんだもん。おいしそうでしょ?白くてたまにピンクで。ふわふわしてて。お砂糖のかたまりみたい」  んんん?頭が混乱してきた。確かに桜は綺麗だ。だけど、桜の木を見て、その花を食べる物として認識できない。桜あんぱんとかあるけど。あれは桜風味の何かや加工されたものであって、桜の花びらをそのまま食べてもおいしくないんじゃないか。よく見れば、女の子の掌にはすでに何枚か桜の花びらが握られている。落ちているものを拾ったのだろうか。それを口に入れるのは衛生的によくないと思うけど… 考えている間に女の子が持っている桜の花びらを口に入れようとする。 「待った待った!」  女の子を制止して、とりあえず公園のベンチに座らせる。 「だってねぇ、お母さん、お買い物行ったらおやつは一個だけっていうんだよ」  小学校低学年くらいに見えるその女の子は、座って話を聞いているうちにすらすらと桜の魅力について語り始めた。 「でもねー、桜のお菓子おいしそうなのいっぱいなの。ひな祭りに食べた桜餅おいしかったしー、桜ゼリーとかピンクできらきらツヤツヤしてて、きれいなの」  公園には小学生が走り回って遊んでいる。風が吹くたびに桜の花が揺れ、花びらが舞う。 「公園にはたくさん桜の花びらたくさん落ちてるでしょ?これがあれば、たくさん桜のお菓子食べられると思ったんだ。お母さんに作ってもらうの」 「いやいや、落ちてるのは食べられないでしょ。誰かが踏んでるし、土ついてるし。汚いよ。桜のお菓子はお店に売ってる桜の花びらで作るだろ」 「お店に桜の花びら売ってるの?リン見たことない!お兄ちゃん連れてって」
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