桜の木と女の子と寂しがりやな少年

4/5
前へ
/5ページ
次へ
「その桜、ジャムにしようよ」  お金を払って、袋に入れてもらった桜を手に持った僕に女の子が言う。 「いちごはジャムになってビンに入れられるんだよ。だから、この桜もジャムにしよう」  確かそんな歌があった気がするな。でも苺どっから出てきたよ?春に取れるから?よくわからない理由で、桜がジャムになることに決定する。では、そのジャムは一体誰が作るんだ?お母さんに作ってもらうんだろうか。 「お兄ちゃん、桜のジャム作って、また明日公園に来てよ」  声にならない声が出た。 「なんで僕?桜のジャムの作り方なんて知らないし」 「それは頑張って。だってお兄ちゃん暇でしょ?今日も公園に一人でいたし」  いきなり痛い所を突かれた。確かに大学四年生で卒業もし、バイトも辞め、四月の入社式を待つだけの、三月後半、僕は暇だ。毎日遊んでくれるような友達もいない。  本来今日は彼女と会うはずだった。しかし数日前から、ぎくしゃくとしてしまい、連絡が取りづらくなった。四月から住む場所が離れ、なかなか会えなくなるために、お互いの不安や寂しさが募り、小さな喧嘩をしたことがきっかけだ。  大学を卒業し、就職のため一人暮らしをし、彼女とも毎日会えなくなった。毎日気心知れた誰かしらと会う日常がなくなって初めて、寂しいという感情を思い知った。僕は、一人で行動するのが好きな方だし、元々一人っ子だったのもあって、一人は慣れていると、寂しいという感情とはかけ離れたところにいると思っていたのだ。  しかし、皆と会わなくなって、何も用事がないのに友達に連絡したり、人が多い所に用事を作ってわざと行こうとする自分に気付いた。一人で出かけた先で、ここに彼女がいたら、友達、家族がいたらと考えるようになって、あぁこれが寂しいという感情だと気付いた。そうか自分は寂しかったんだ。  今日も本来彼女と待ち合わせるはずだった公園に、彼女のキャンセルが入ったにもかかわらず一人で来てしまった。そこで、女の子が現れたので、内心ほっとしていたのだ。寂しいからついついこの女の子の言うことを聞いてしまう。 「わかった。作ってまた明日持って来るよ」 「やったぁ」  女の子の白いリボンで結ばれた二つ結びが楽しそうに揺れた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加