桜の木と女の子と寂しがりやな少年

5/5
前へ
/5ページ
次へ
 一人暮らしのマンションに帰って、スマホの料理サイトとにらめっこしながら、ジャムを作り始めた。鍋に水、砂糖を入れてしばらくしたら桜の花びら、その他の材料を入れていく。桜の匂い、春の匂い、公園の温かな日差しの匂いがした。  翌日昼頃、昨日とほぼ同じ時間に公園に行ったが、そこに昨日の女の子の姿はなかった。昨日桜の花びらを取ろうとした、木の周りにも、一緒に話したベンチにも、女の子はいない。辺りを見回していると、強い風が吹いて、桜の花びらがひらひらと落ちてきた。  強い風に目を開けていられなくなって一瞬閉じ、また開けると桜の木の下に彼女が立っていた。 「りんね」 「桜綺麗だね。天気良いから、散歩したくなっちゃって」  僕が持っている紙袋に気付いて指差す。 「それ何?」  僕は紙袋から、桜ジャムが入った瓶を取りだす。透明の瓶に入った濃いピンクの液体が、日の光にあたってキラキラ光る。 「えー、ジャム?料理なんかしたんだっけ」  そんなことを言いながら楽しそうに笑う。髪につけられたリボンが楽しそうに揺れる。  彼女の横に並んで歩き出した。  昨日女の子と桜の話をしたベンチに、桜の花びらが一枚乗っていた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加