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店を出た私は、沈んだ気持ちを紛らそうと、
一人夜空を見上げた。
月の光のない夜、明かりの少ない裏通りでは
星が瞬くのが思いのほかよく見える。
ーーサクラは咲き誇るとこんな風に見えるのだろうか。
ますます存在感が大きくなる私の妄想のサクラ。
「サクラ……。見れないのかなぁ……。」
それはまるで、大切な人を失ったかのような喪失感だった。
失って初めてわかる、その大切さ。
いや、そもそも私は失ってすらいないのだけれども、
いつの間にか私にとってサクラは
旧来の友人のようになっていたのだ。
どうしようもないほどのセンチメンタルな気持ちは
私の目に悲しみを溜め、星空を歪めた。
その時、私の背後から声が聞こえてきた。
「見れますよ。」
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