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「親父さん、この柄はなに?初めて見たんだけど。」
ピンク色の切子のグラスに刻まれた模様を眺めながら、
私は居酒屋『花より団子より酒』の主人に問いかけた。
今までに見たことのない模様、しかし、それが花であることは間違いない。
その花は5枚の花びらを持ち、
先端に切り込みの入った花弁。
均整の取れたその佇まいは、まるできらめく星を模したかのよう。
いくつかの花がまとまって手毬のような形を成し、
咲き誇るその花手毬はグラスに無数に散りばめられていた。
「お客さん、いくつだい?」
包丁の手を止めた店主は
顔をあげてカウンター越しの私に聞く。
「32歳です。」
「32……そうか。
『サクラ』を知らない世代も、
もうこんなにでかくなっちまったんだな。」
店主は憂いを含んだ瞳をまな板に落とすと
再び包丁を走らせた。
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