1. 滅亡の象徴

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ーーサクラ? 店主の口から出た、聞き及んだことのないその単語は 突如として私を魅了した。 ーーサクラ。サクラ。サクラ。 頭の中で連呼しながら、切子のグラスを光にかざしてみる。 反射した照明は、サクラという花の木漏れ日のように私の顔を照らす。 ーーああ、なんと魅惑的な響きなのだろう。 この美しい形にその名をつけたのは誰だろうか。 私はその人に賛辞を贈りたい。 グラスの中の焼酎が揺らぐと、 切子のサクラはまるで風にそよいでいるかのようだ。 「サクラってのはさ、かつてこの国でもっとも愛でられ、 もっとも栄えていた花なのさ。」 店主は昔話をするような語り口で続けた。
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