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「全国大会に出たって言っても俺ぐらいの実力のある連中が全国から入学するそうなんだ。目が出なければ学校には残り難くなるそうだし、実際見込みが無いと言われた者は一年もしないうちに辞めているそうだ。俺がそうならないという確証は無いし……それに、姉ちゃん、本当は親父の事心配なんだろう。何だかんだって言っても本当は心配なんだろう。だから俺がこの家から高校に通って親父と一緒に暮らすよ。そりゃあ姉ちゃんみたいには行かないけれど、俺と親父で仲良く暮らすよ。親父に何かあってもすぐに知らせられるし。姉ちゃんもその方が安心だろう?」
照れもせず、真正面を向いて弟はそう言い切った。
「あんた……じゃあもう部活は辞めるの。高校じゃやらないの?」
その言葉を聴いた弟は照れるような笑い顔をして
「調べたんだ。姉ちゃんの高校……結構強いじゃないか。県大会でベスト四になったこともあるじゃん。だから俺が入って必ず全国に連れてってやるよ」
そんな強気なことも言う……。
「そう……それで、あんた成績はどうなの。わたしの学校結構レベル高いわよ」
「だから勉強してるんじゃん。県立に簡単に入れるとは思ってないよ」
何時の間にそんな事を考えていたのだろう。帰って来ても夕食の事しか話さないと思っていたのに、千秋の心に少し明かりが灯った気がした。
「それに姉ちゃん。……姉ちゃんの好きにすれば良いと思うんだ俺。姉ちゃんは母さんが亡くなってから、おしゃれもせずに、彼氏も作らずに、高校と家の往復だけで過ごして来たじゃないか。俺は自由にさせて貰った。ありがたかった」
愛美は二人分のお茶を入れると弟の前に差し出す。それを手に取り一口飲むと
「俺だって、姉ちゃんだって同じ母さんの子じゃないか、それなのに何時も俺だけ良い想いをして、姉ちゃんは貧乏くじばかり……俺、ずっと姉ちゃんに悪いと思っていたんだ。だから、今回は姉ちゃんの希望通りにしなよ。俺、ちゃんと勉強して、姉ちゃんと同じ県立に入って、部活もやって、そして大学に行くよ」
愛美は弟がそんなことを考えていたのが嬉しかった。母親の代わりをしたのだって、自然とそうなっただけだ。特別にやりたい事を我慢していた訳ではない。そう……自然となっただけだ。
黙っている愛美に弟は恐る恐る
「怒ったか? 生意気なこと言って気に触ったなら謝るよ。俺、姉ちゃんには本当に感謝しているんだぜ」
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