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柊子の助言
「もう最悪ですわ……。春光さんには笑われてしまったし……。あの蓮っ葉(お転婆)め、いつかきっと復讐してあげますわ」
日比谷図書館の婦人閲覧室で柊子と勉強をしながら、楓は小声でぶつぶつと愚痴を言っていた。
あの後、楓が葵の家に電話をかけて問いただすと、葵は「引っかかりましたね、竜田先輩。あっはっはっは」と少年のようにカラカラと笑い、あの手紙はエイプリルフールの嘘だと認めたのだ。
「さすがは、去年の秋頃に長かった髪をザクッと大胆に切って、父親を一週間ほど寝こませたことのある断髪ガールだね……」
楓の話を聞いた柊子はそう言って笑いながら、あきれている。
この当時、女性は長い髪が当たり前で、「髪を切る=女の子やめる」と言っていいほど、ショートヘアは衝撃的な髪形だったのである。しかし、いずれはそんな断髪のモダンガールが街を堂々と闊歩するようになり、世間の人々の注目を集めるのだが……。
「それもこれも、全部、春光さんが悪いのです。あの人のエイプリルフールの嘘に警戒しすぎて、他の人たちからの嘘に対してつい無防備になってしまったから……」
「それで、風車さんは楓ちゃんにもう嘘はついたの?」
「それが、不思議なことにまだなのです。私がいつ嘘をついてくるかと身構えているというのに、春光さんったら、どうして今年のエイプリルフールは私に構ってくれな……こほん、何も仕掛けてこないのかしりゃ」
危うく口を滑らせそうになった楓は、若干噛みながらも言いつくろった。しかし、ぼんやりしているように見えて意外と耳ざとくて察しのいい柊子は、「もしかして……」と楓の顔をまじまじと見ながら呟く。
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