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「楓ちゃん、春光さんに構って欲しいの?」
「なっ!? そ、そそそそそそそんなことは!!」
見る見るうちに顔を紅潮させ、楓は裏返った声で言いわけしようとするが、言葉が上手く出ない。柊子に「図書館は静かにね」と注意され、楓は慌てて口をつぐむ。
「別にそんなにムキになって否定しなくてもいいのよ。だって、誰だって好きな人には構って欲しいものだもの」
「す、好きな人って……。春光さんは、親が決めた将来の夫というだけで、私は……」
「でも、楓ちゃんは風車さんのことを憎からず思っているのでしょ? 楓ちゃんは考えていることがすぐに顔に出るから丸わかりだわ。楓ちゃんのそうやってコロコロと表情が変わるところ、とってもチャームさんよ」
柊子がニコッと微笑みながらそう言うと、楓はまた顔を赤らめた。魅力的な人のことを柊子たち女学生は「チャームさん」と呼んでいるのである。
「風車さんも、きっと、楓さんが怒ったり驚いたり、百面相している姿が可愛らしいと思って、ついつい意地悪をしてしまうのかも知れないわ。男の人って、案外と子供っぽいところがあるから……」
(春光さんが私のことを可愛いと思ってくれている……? そ、そうなのかしら?)
春光の意地悪げな笑みを思い浮かべて、楓はにわかには信じられないと思った。
でも、もしも柊子の言う通りだったら……?
ほんのちょっとそう考えただけで、楓の胸はドクンと高鳴る。
「で、では、春光さんは、今年のエイプリルフールはどうして……?」
「それはちょっと私にも分からないけれど、別に嘘をつかれるのを待っている必要はないでしょ?」
「え?」
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