可愛い嘘

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「ま、毎年、毎年、春光さんにはたちの悪い嘘ばかりつかれて、私は大変ですわ。そ、それに、あなたはいつも意地悪で、奉公人のくせに態度も大きくて、私を小馬鹿にするんですもの……。それなのに、たまにびっくりするぐらい優しいし……」 「……お嬢様?」  いったい何が言いたいのだろうと思った春光が首を傾げる。でも、楓は、耳まで真っ赤にしながら、構わずに言葉を続けた。 「わ、私……そんなあなたのことが大嫌いですっ!!」  楓が声を震わせてそう告げた後、二人の間にしばしの沈黙が流れた。春光は大きく目を見張り、顔を背けながらもじもじしている楓を凝視している。そして、やがて春光は、  その場に崩れるように、がくりと膝をついた。 「え? え? 春光さん!? な、何? もしかして、落ちこんでいますの!? ど、どうして?」  全く予想していなかった展開に楓はおたおたとしながら、ぶるぶると肩を震わせている春光に声をかける。 「どうしてって……。お嬢様に『大嫌い』と言われたら、落ちこむに決まっているじゃないですか。これでも俺はお嬢様の許嫁なのに……」  嗚咽しながら春光は自分の悲しみを訴える。  どうやら彼は人をからかうのは得意だけれど逆に嘘をつかれたら見抜けない人間だったようだと思った楓は、 (ああ、どうしましょう、どうしましょう……。私なりに可愛い嘘をついたつもりだったのに、春光さんの心をえぐってしまったわ)  と焦って、自分まで泣きたくなってきた。
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