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「ご、ごめんなさい、春光さん。泣かないで……。私、さっきの言葉はエイプリルフールの嘘のつもりだったの。頭のいい春光さんなら、嘘だって簡単に分かると思って……」
すっかり動転してしまっている楓が涙ぐみながらそう言うと、春光は顔を伏せたまま「つまり、さっきのは嘘だったということですか?」とたずねた。
「え、ええ、もちろんよ」
「それはよかった……。ところで、お嬢様。『大嫌い』の反対の言葉って何でしたっけ?」
「そんなの決まっていますわ、大好き――」
そこまで言って、楓は気がついた。
いつの間にか、春光がニヤニヤ笑いながら自分を見つめていることに。
「だ、騙しましたわね! 春光さん!!」
素っ頓狂な声で、楓は叫んだ。
春光は落ちこんだふりをしていただけだったのだ!
楓に「大好き」という言葉を引き出させるための嘘泣きだったのだ!
しまった、今年のエイプリルフールもしてやられた!
「騙しましたわね! 騙しましたわね! 騙しましたわねーーーっ!!」
「ち、ちょっと、お嬢様! 通行人たちが見ていますから落ち着いてください!」
まんまと術策にはまって悔しい楓は、商家のお嬢様という立場も忘れて、小さな子供みたいに春光をポカポカと殴り始めた。
春光はぜんぜん痛くはないが、花の女学生が若い男に殴りかかっている光景を見た通行人たちが眉をしかめて「最近の若い者は……」と嘆きながら通り過ぎて行く。
知り合いにでも見られたらお嬢様の名誉に傷がつくと思い、さすがに焦った春光は「ごめんなさい、ごめんなさい」と苦笑しながら謝って何とか楓を落ち着かせた。
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