今年もやって来た四月馬鹿

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 竜田商店のお嬢様で、麻布鳥居坂のメイデン友愛女学校の女学生である竜田(たつた)(かえで)は、エイプリルフールに苦々しい思い出がある。  去年の四月一日は、 「お嬢様! 家の前で芥川龍之介と菊池寛が殴り合いの喧嘩をしています! しかも、拳で語り合ったことで強い友情が芽生えたらしく、今は熱い抱擁を交わしています!」  と言われて、驚いて屋敷を飛び出したら、発情期の猫たちがみゃーみゃー言って喧嘩していただけだった。  二年前は、 「た、大変です! お嬢様! たったいま役所から連絡があって、実はお嬢様は生まれた時に間違って『男』と戸籍に書かれてしまっていたそうです! だから、女性と結婚しなければいけないらしくって……」  と言われて、衝撃を受けた楓は、女の人と結婚しなければいけないのならせめて気立ての優しい幼馴染の風花(かざはな)柊子(とうこ)と結婚したいと大真面目に考え、柊子の家を訪ねて、 「柊子ちゃん。どうか私を柊子ちゃんのお嫁さん……じゃなかった、お婿さんにしてくださいまし」  と、おいおい泣きながら懇願してしまった。もちろん、柊子には頭がおかしくなったのではないかと心配されて、危うくお医者さんを呼ばれそうになった。 「毎年、毎年、エイプリルフールにかこつけて主人の娘である私をからかうあの男……風車(かざぐるま)春光(はるみつ)! いくら私の将来の夫になるからって、許せませんわ! こ、今年こそは騙されませんわよ!」
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