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序章
四十八歳になって転職するとはまったく思っていなかったが、
妻の両親が高齢で心配と言う事もあり妻の実家へ、一人息子と妻と私の3人で行く事になった。
運良く実家近くに仕事場を見つけ、今日から出勤となった…
「おはようございます!」仕事場へ着くと、駐車場周りを小柄な壮年の男性が一人掃き掃除をしていた。
「おはようございます!初めまして!今日からお世話になります、松前伸二(まつまえ しんじ)と言います!」伸二は掃除の手を止めてこちらに挨拶に来てくれた、壮年の男性に挨拶した。
「ああ、こちらこそ!宜しくお願いします!尾原 久平(おはら きゅうべい)です!」久平は自分よりも大柄な伸二を見上げながら挨拶した。
久平はこの仕事場に開業当時から勤めており、周りの信頼も厚い男であった。
仕事の休憩時間、伸二は仕事を覚えようと午前中にチェックしたノートを見直していると、
「今年の桜は見ましたか?」いつの間にか隣に座っていた久平が伸二に声を掛けた。
「桜?…いえ、今年の春はバタバタしていて、花見は出来ていませんね…」伸二は久平にそう答えながら、引越し等の忙しさのストレスで、妻と大喧嘩になった事を思い出し苦笑してしまった。
久平は不思議そうに伸二を顔を眺めると、
「…染井吉野の寿命を知ってますか?」伸二へ急に質問してきた。
「いえ、知らないです…」伸二は考えるまでもなく正直に答えた。
「60年くらいなんですよ…」久平は感慨深く、伸二に教えた。
「人の寿命よりより短いんですね…」伸二は関心して言った。
「僕はもう染井吉野より、十年以上長生きしていますよ!」久平は急に声を張った。
「え?…一体おいくつ何ですか?」伸二は自分が思っていた以上の年齢の高さに少し驚いて確認した。
「今年で七十二歳に成ります!」久平は当たり前の様に答えた。
「…私の母と同じ歳ですね?」伸二は久平の活発さに色を失った…
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