第四章 待ちに待ったこの日

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第四章 待ちに待ったこの日

疲れた二人は道の駅の端にあった、石造りで出来た椅子とテーブルに腰を掛けると、二人で缶コーヒーを味わった。 のんびり休んでいると、じっとしているのが嫌いな久平はうろうろし出した。 うろつく久平に少し目をやると伸二はスマホを出して触り、コース確認を始めた。 「松前さん!松前さん!…」スマホを触ってボンヤリしていると久平の慌てた声がきこえた。 「何です?」疲れていたので久平の慌ただしさには付き合わずに生返事をした。 「こっちに来てください!」久平に思った以上に力強く右腕を引っ張られて、伸二は少し体勢を崩した。 「どうしたんですか?」体勢を崩したのを取り繕って伸二はスマホをしまいながら聞いた。 「いいから、こっちに来てください!」久平は真剣な顔で怒る様に言った。 「何を怒ってるんですか?尾原さん…何があったんですか?」伸二は驚いてさらに聞いた。 「早く!!」久平はそう言う伸二の言葉に耳を貸さずに、さっさと案内もせずに行ってしまった。 「もう!何だよ?くそジジイ!」伸二は毒ずくと久平の後を追った。 羽鳥陽真里(ハトリ ヒマリ)は動揺していた。この人気のない小さい道の駅に着くまでの間、色々思案して見たが、どの案も子供じみていて、とてもこの状況を打破できる案ではなかった。 「こんにちは!」自販機近くのベンチで頭をフル回転させていると、突然、陽気な声に遮られた。 「え?」陽真里は思考を止まられたショックと自分と真逆なテンションに驚き見上げた。 陽真里の目の前に小柄な老人が笑顔で立っていた。 「今日は良い天気ですね!お一人で来られたのですか?」老人は驚くほどのはつらつさで陽真里に話しかけてきた。 「そっ、そうですね!いいお天気…」動揺していた陽真里は思考が乱れて言葉がつまり、老人に視線を合わせられなかった。 老人は遠慮なく陽真里の隣へ腰をかけると、聞いてもいない事を話し出した。 麻生涼(アソウ リョウ)は羽鳥陽真里へのプロポーズするチャンスを五年間待っていた。 周りから地味で奥手と揶揄されながらも、彼女と過ごせる時間を手にすることができるのなら、どんな事にでも堪えられた。 そしてその日、深夜の彼女とのドライブで二上山の山頂付近に路駐して、徒歩でしばらく山道を登ると、急に道が無くなり絶景が拡がった。 そこには柵も無く崖になっており、崖下は人も通らない森になっていた。
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