第1話

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「女子……ですね」 「おぅ。美少女だろ?儚げな感じがまた……」 「先生」 「あ、いや。ゴホン。ーーーこの子、まだ登校できてないけど同じクラス。ついでに美術部希望」 「不登校ってやつですか?」 「ん、いや。貧血でちょっと、な」 「貧血って。登校出来ないくらいだから相当重いってことですよね。……で?」 「登校して来ている日だけでいい、面倒見てやって欲しいんだよな。……っておいおい、そんなに露骨に嫌そうな顔するな」  些か分かりやすすぎる顔だったか。 「面倒っていうか、僕は保健委員ではないので……」 「分かってる。ただ、出て来た時には気にかけてやって欲しいんだ。成績はいい子なんだけどなぁ、どっちにしろ出席日数でいずれ引っかかってくるんだろうが、とりあえず本人の気の済むようにさせてやって欲しいとのご両親からの希望があるんだよ」  僕には、家族や親戚一同をみても身体の弱い、もしくは高齢に伴う病以外の持病を持った人間は、今のところ見当たらない。それなのに急に重い貧血だとか言われても、そもそもこれ迄あまり接したことのない“女の子”という人種に、どう対応したらいいというのだ。 「そういうわけで、委員長、この子の顔、覚えたな?」 「まぁ……、はい」 「んじゃ、よろしくな。彼女、中三頃に急に悪化してきてるらしいから、まだいつ登校できるか分からないけどな」 「……わかりました。要件はそれだけですか?」 「おー。頼んだぞ」 「………………はい。失礼します」  何だってまた厄介な。  折角入った学校の授業にどうやってついていこうか、そればかり考えていたというのになんてことだ。  まぁいい。いつ登校するんだか分からない女の子に今から振りまわされてどうする。来たら来たでなるべく関わらないように、とりあえずただ“見て”いればいいだろう。  放課後の、グラウンドから響く活気あふれる掛け声を聞きながら、『三枝(さえぐさ) 結菜(ゆうな)』という名前の、青白い顔で唇だけで小さく微笑む少女の顏を、僕はぼんやりと思い浮かべ、帰路についた。
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