第1話

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 四月の間、彼女はとうとう学校に来なかった。担任の話によると、入学前の春休みからしばらく入院しているらしい。  クラスメイトたちは一向に登校して来ない謎の多い少女について、しばらく様々な憶測の入り乱れた噂話で日々盛り上がっていた。だがそのうち噂話にも飽きたのか、いつしか誰も彼女の名前を口にしなくなっていたし、担任も、あえてクラスメイトたちに彼女のことや、まして病気の話など一切口にすることはなかった。  一方僕は僕で、そんな事情を話すような友人もまだいないし、とりあえずクラス中で不定期に担任から、彼女の簡単な近況を知らされているのは、どうやら僕だけらしかった。  五月。学ランを着ていると汗ばんでしまうくらいの陽気になり、学校生活にも大分ゆとりが出てきた頃。  ゴールデンウィーク明けの昇降口、折れそうに細い身体で、我が校指定の真新しいセーラー服を着た色白なお下げ髪の少女が心細げに立っていた。整った顔だちと、大きな目が印象的なその少女は、ある意味とても目立っていた。  ーーー三枝……結菜、だ。  僕にはすぐ分かった。写真の通りの、十中八九、美少女と分類されるであろう目鼻立ちの……。  少々悪い雰囲気を醸し出している先輩方が品のない笑みを浮かべ、彼女に今にも声をかけようとヒソヒソと話している声が耳に入り、ハッとして思わず足が動いていた。 「三枝さん?一Aクラス委員の有藤だけど。教室が分からないなら、一緒に行く?」  背後からなるべく驚かさないように話しかけたつもりだった。 「ーーーあ、ええと…………?」  “びっくり”という言葉がぴったりなくらい、目をまん丸にしてこちらを向いた彼女の具合を真っ先に心配してしまう僕は、こんなにもお節介な性格だっただろうか。
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