君へ

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少しずつ私は蝕まれていた。不安、悲しみ、疑念。君という存在はこんなにも大きかったのか。 また君に相間見えることがあったなら。君の温度を感じることが出来たなら。期待、落胆を繰り返し、気付けば季節は一巡し、春色の風景が見えるようになってしまった。 あの日、大好きな君の横顔が見えた 。曇っていたからか、私の知っている君の顔が随分ぶれて見えた。 途端に君の事しか考えられなくなって、疎遠になっていた君と話がしたくて、君の瞳が見たくて、君に触れたくて仕方がなかった。身体は素直なもので、ガードレールを飛び越えて君の名を叫びながら飛び出していった。 けれど、最期まで君が届かなかった。 私の器は灰となり消滅した。君への想いだけを抱え、宙をさ迷う存在へとなった。しかしそのお陰でその後全部知ったんだ。本当はあの時私が見えていたのに見ぬふりをしたこと、私に合わす顔がなかったこと、あの日桜の木の下で交わした約束が儚く散っていったこと。 君は私に会うことが何よりも怖かったんだと、全てを知った。 ほの暗い中でずっと涙を流し、私からの鳴らない連絡を待ち続けている哀れな君。 もし君があの日私を見てくれていたなら。 もし君が夢を叶え会いに来てくれていたなら。 もし君が私に恋情を抱かなければ。 もし私が君に恋情を抱かなければ。 私は私に散り、君は君の夢と散った。 君のせいではないと、もう忘れるんだと言われても君にはもう届かないんだろう。けれどそれでいい。私をどうか忘れないでいてほしいから。 そしていつか、この世が君が犯した過ちを許すことがあっても、私は、私だけは許さない。 だから、だからここでずっと待っている。君が約束を交わしてくれたこの桜の木の下で待っているから。私に許されるように、この桜を命終えるまで見守っていて。咲いては儚く散り、土へ還るこの輪廻を見守り続けて。それが君の贖罪だ。 誰よりも、何よりも愛しい君。 散っていく桜の花びらの中、君と目があったような気がした。 ああ、やはり君は美しい。 咄嗟に手を伸ばし、君の頬に手を添えた。私にはもう君の温度を感じることが出来ないはずなのに、ひどく温かく感じた。 ありがとう、やはり君を好きでよかった。 君を愛している。
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