はじめに。…ねえミキちゃん梅宮ってどんな街?

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「梅宮はね、色で例えるなら群青色、人で例えるなら膝を擦りむいた男の子!」 と、イトコのミキちゃんはそう言うが、ミキちゃんの言うことの大体はミキちゃん本人かミキちゃんの愛犬ベロニカにしかわからないので僕が代わりに説明しようと思う。 埼玉県梅宮市は東西に長い埼玉県の西の最果てにある街だ。 観光地として有名な埼玉の奥座敷こと秩父のさらに奥、群馬、長野、山梨との県境付近に位置し、埼玉の奥座敷が秩父なら梅宮市は埼玉の大奥であると友人のサトシはそう言っていた。 ちなみにサトシはパンチパーマである。 髪型がパンチパーマなのは勿論だが、サトシの場合なによりも魂そのものがパンチパーマなのである。 「…へへ、そんなに褒めてくれるなよ、照れてラスクになっちまう。」 そう、サトシは照れ屋なのである。 話を戻そう。 梅宮市は四方を雄大な山々に囲まれた盆地であり、というかその街並を形容するならば、山の中に突如として現れるエアスポットのような出で立ちとでも言うのが適切であろうか。 そういえば同じ盆地タウンである山梨の甲府のことを、かの太宰治氏は”シルクハットを逆さにして、その底に小さい小さい旗を立てた、それが甲府だと思えば間違いない”と表現していたが、それでいくならさしづめ、こういうのって何かしらご利益がありそうだよねっと信心の欠片もない人間が井戸の底にぶっきらぼうに投げ入れた10円玉、それが梅宮と思って間違いない。 しかし、そんな東京のベッドタウンとしての機能は絶望的で、どこか不気味なオカルトめいた立地に在るにも関わらず、現在でも七万人の人間が暮らしている。 七万、そう七万人である。 この数にはいつも驚かされる。 何故なら人口七万人とは埼玉県の中でも中規模な市町村とさして違わないからである。 ましてやそれらの市町村は東京への通勤が毎日出来るという埼玉県に在住するならばの最低限の条件が備わっているというのに、それと同じ数だけの人間が何故にこんな山奥の街に?と梅宮をあまり知らない人が知ればそう思われることだろうが、実は僕ら梅宮出身の人間からすれば、なんて事のないひどく単純な話で、「七万人という数をいつ見ても驚く」なんて嘘っぱちで溜飲が下がるだけなのだ。 梅宮の人間は梅宮から出られない、ただそれだけの話なのだ。
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