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よく梅宮の人間は埼玉の異邦人と呼ばれる。
同じ埼玉県民とは思えない位に埼玉のことを何も知らないからだ。
そもそも郷土愛に欠ける埼玉県民ではあるが、他の県民たちとは比にならない程に何も知らない。浦和レッズを応援する梅宮の人間はいないし、大宮アルディージャを応援する人もいない。西武ライオンズが埼玉の球団であることを知っている人がいるかも疑わしい。武蔵一宮氷川神社に参拝することもなく、お隣秩父におわす三十四の観音様を巡ることもしないし、そもそも埼玉がサキタマであることだって誰も知らない。たまに外に出かけて映画を見たところで”のぼうの城”が同じ埼玉県にあったことなんて夢想だにせず、水に浮いているようには思えないかなと鼻で笑う始末。
深谷駅が東京駅に似ていることなんて気づかずにそこを通り過ぎ、嵐山が京都の嵐山に似ているなと思う感性もなく、家に帰り野原シンノスケが春日部の幼稚園児だとはつゆ知らずにテレビを眺め夕飯だ。夕飯のあとに齧る煎餅が草加のものであるなんて家族の誰も知らないし、そもそも夕飯で出たネギが深谷のものであるなんて知らずに夢を見る。
さいたまスーパーアリーナは千葉と東京の境らへんにあるものと勘違いしているし、川越の街並と京都太秦の映画のセットとの差がわかる人は存在しない。
茶畑は静岡にしかないものだと思っているし、まさか埼玉県に政令指定都市、つまり”区”があることなんて梅宮の人間が知ったら心臓発作もの。
鷲宮神社に何故あれだけの人が参拝するのか知るものはいないし、あの日咲いた花の名前を知る人間は残念ながら梅宮には存在しない。
梅宮の子は何も知らない。
梅宮の子は何も見ない。
梅宮の子は何も聞かない。
梅宮の子は何も言わない。
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