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天候良好。仕事もなく。日の高いうちに海につく予定だった。
しかし、早く行くために首都高に乗ったのが裏目に出た。10キロと走らないうちに事故による渋滞で足止めを食らい、下道で行くことを余儀なくされた。不運には不運が続く。ナビに間違えた道に誘導されて、元の道に戻るのにまたも時間をとられた。
気づけば正午を過ぎ、朝食をとらなかった俺は空腹の限界だった。入り組んだ住宅街みたいな場所を徐行していると、折よく中華料理店が見えてきた。ボロくて閑古鳥が鳴いている寂れた個人営業の店だ。だが、この際贅沢は言えない。
「飯にしようぜ、果穂」
「わかった」
シートベルトを外すと、果穂は俺の首に顔を埋めた。生暖かい吐息がかかり、固い歯が肌に当たって、ぱっと離れた。
「冗談だ」
果穂は車を降りた。喉笛を噛みちぎられる事態にはならなかった。が、さぁっと血の気が引いた。遅れて恐怖がやってくる。
「笑えない冗談はやめろ」
鬼にも感情はあると果穂は言った。そろそろ我慢の限界だと、暗に脅したつもりなら、これは覿面に効いた。
「そんなに海が見たいかねぇ」
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