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「こんな田舎で何が出来るって言うの!?」
そう言い張り、家を飛び出して何年経っただろうか?
「お前に何が出来るって言うんだ!」
耳を両手で塞いでも、あの時の父の怒鳴り声が今でも耳の奥に残っている。
「絶対に……お父さんをビックリさせてやるんだから!」
勢いよく立ち上がり、リビングのドアを開けた。
「勝手にしろ!」
その言葉に、私は一度足を止める。振り返ると小声で「お父さん!」と父の身体を揺する母は、困った表情で私と父を交互に見た。
私は唇を強く噛み締めて、真っすぐ玄関に向かう。事前に用意していたキャリーケースを持ち、玄関のドアを開けた。何年も開け閉めしていたのに、いつも以上に重く感じる。
きっと、これは……いい機会だったんだと思う。
何もない田舎を飛び出すきっかけになった、そう思えばいい。
「…………」
いつもなら「いってきます」と挨拶をしてから出る家を、今日は何も言わずに出て行った。
ゆっくりと閉じていくドアの鈍い音を背後に訊いて、私は――あれから何年も家に帰っていない。
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