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1章 天音の場合
夜。桜は空を舞い続け、学校の2階まで積もってしまっていた。
(最低の夜桜だな。)
天音は屋上の鉄柵に腰掛けながらそんなことを思った。
屋上には、天音の他には誰もいない。他の人間がどこにいるかも分からない。もしかしたら、数人は埋まってしまっているかもしれない。
(ただし、)
それを嘆く気は天音にはない。どうせ他人は他人なのだ。いつも親しく喋っていた友達だろうと。他人のことを優先し、自分を失うことは天音には許容できなかった。
(それでも、)
なんだろう、この気持ちは。自分を失いたくないと考えているくせに、ここから飛び降りて、桜に埋もれたいと思っている自分がいる。
桜に埋もれるというのは、どのようなものなのだろう。いい香りがするのだろうか。痛いのだろうか。
どっちにしろ、埋もってしまえば窒息しかないだろうな。
落ちていく。桜の空を。
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