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哲也と違い山下は真剣な表情だ。
「逃げる? 何から逃げるんですか」
『ここからだよ、磯山病院から出るんだ』
「磯山病院? 」
言いながら哲也が振り返る。
「あぁ......病院の壁かぁ~~ 」
見覚えがある筈だ。山肌に沿ってそそり立つ大きな壁は磯山病院を囲っている壁だ。広い敷地をぐるっと囲んでいる壁の外に哲也は居た。
山下が哲也の腕を引っ張った。
『哲也くんチャンスだ。チコさんと一緒に逃げるんだ。磯山病院から出るんだよ』
前に向き直った哲也が怪訝な顔を山下に向ける。
「病院から? 何言ってるんですか、僕はまだ退院なんて先ですよ」
哲也の腕を掴みながら真面目な表情をした山下が首を振る。
『そうじゃない、退院なんてどうでもいいんだ。ここは哲也くんが思っているようなところじゃないんだよ、やっとチャンスが来たんだ。チコさんと一緒なら出られるんだ。だから逃げるんだ』
「何で逃げなきゃいけないんです。僕はこの病院に不満なんてないですし先生も看護師さんたちも親切にしてくれてますよ、他の病院へ移るなんて嫌ですからね」
哲也が顔を顰めた。山下の事は好きだし頼みは利いてやりたいがこればかりは無理である。
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