第一話 入れ物

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「じゃあオッケー、ちゃんと飲んで体力付けないと警備任せられないからね」  笑顔でこたえる哲也に香織が冗談っぽく笑って合わせてくれた。  飲んでいる薬の中にはビタミン剤もあるが本当は心療内科の薬だ。哲也も分かっている。 「明日は水曜だから池田先生のところへ行って下さいね」 「はい、分かってますよ、それと............ 」  去ろうとする香織を呼び止めた。 「あの松葉杖の人、見掛けない人だね、新しく入ったの? 」  長い廊下の先、角を曲がる男を指しながら訊いた。 「ああ、加山さんね、加山さんがどうかしたの? 」  何かトラブルでもあったのかと心配顔で聞き返す香織の前で哲也が慌てて口を開く、 「別に何もないよ、何の病気かなって思って......まともそうだったし...... 」  加山はがっちりした大柄の男だ。表情も目の輝きも普通の人に見えた。とても病んでいるとは思えなかった。 「加山さんね......何でも化け物に襲われるって言って自分から入院してきたらしいわよ、取り敢えず検査入院にして10日程様子見するらしいわよ」 「自分から入院したんですか? 自分から...... 」 「哲也くん、また変な事考えてるでしょ? 」  パッと顔を上げた哲也を見て香織は姉が叱るように睨んだ。     
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