第一話 入れ物

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「診察日が水曜と金曜ってわかっているのなら構わないよ、今日は夕方まで空いているからね」  にこやかな池田先生を見て哲也がおべっか笑いをしながら診察室へと入っていった。  いつもの定期診断を終えると哲也が話を切り出す。 「新しく入った加山さんの話しを聞きたくて...... 」 「もう耳に入ったのか? 誰から聞いたんだい? それで今日来たんだね」  呆れ顔の池田先生を見て哲也が嬉しそうに顔を綻ばす。 「えへへ、警備員ですからね、新しく入った人はチェックしてますよ」 「警備員か......そうだね、化け物に襲われるなんて聞いたら仕方無いか、でもトラブルは御免だよ」  池田先生は一言忠告してから教えてくれた。  本来なら話してはいけないのだろうが哲也は特別扱いだ。哲也が関わる事によって状況が良くなった前例が幾つもある。妄想だろうと何だろうと茶化さずに相手の話を真面目に聞く哲也なら大丈夫と判断したのだろう。  加山亮(かやまとおる)さんは強迫観念が強く時々パニックになる強迫性障害という事で病状を見るために検査入院してきた人である。登山が趣味というだけあってがっしりした大柄の山男と言った雰囲気の33歳の男性だ。     
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