第一話 入れ物

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 単独登山が趣味の加山は1年と4ヶ月程前にある山へ行った。まだ残雪が残る春山だ。 「少し寒いな、息が白い」  昼食に持ってきたインスタントラーメンを作るためにシングルバーナーとコッヘルを使って湯を沸かしながら辺りを見回す。  シングルバーナーというのはアウトドアで使う小型のコンロの事だ。コッヘルというのはアウトドアで使う鍋の事だ。大小の鍋を重ねてコンパクトに畳む事が出来る。  春山登山と言うにはまだ早い時期なので他には誰も居ない、平日という事もあってか登っている途中でも出会わなかったので今日は誰も居ないのだろう。 「貸し切りだな」  一人になるために山に登っているようなところのある加山は満足気に呟いた。  岩に腰掛けスキットルから直接ブランデーを飲む、 「ふぅ~~、温まる。冬はやっぱこれだな」  上機嫌で二口三口と酒が進む。  学生時代は本格的な登山もしていたが仕事の忙しい今は専ら日帰り登山専門である。山の雰囲気を味わう為に登っているようなものだ。2~3日休みがあれば遠出をする事もあるが山で泊まる事は無い、日帰り登山をして麓の宿に泊まってゆっくり休む、リフレッシュして普段の生活に戻っていくのだ。 「そろそろいいな」     
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