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第二話 囁(ささや)き
囁くという言葉は余り良い意味では使われない、甘言で釣られて苦渋を味わった人もいるだろう、だが気のある人に耳元で囁かれるのは気持ちの良いものだ。
何者かの声が聞こえるタイプの幻聴も一種の囁きと言ってよいのかも知れない、大きな音やハッキリと話しが聞こえる幻聴などは余り聞かない、幻聴の殆どがボソボソと何を言っているのか分からないものだからだ。
鬱病や神経症の耳鳴りが悪い方へと進むと幻聴となる事がある。神のお告げを聞いたり宇宙から電波を受信するとかいうヤツである。ボソボソとしか聞こえないので自分の頭で補完して声が聞こえたととんでもない事を言うのが殆どだ。
哲也も神様の声が聞こえるという人を知っている。
柴谷源弥(しばたにげんや)さんだ。27歳で落ち着きのない軽い感じの馴れ馴れしい男だ。俗に言うチャラ男である。磯山病院には精神錯乱、いわゆる狐憑きで事件を起こして入れられたらしい、診断では統合失調症となる。今は落ち着いているが暴れ回って手当たり次第に噛みついていたという事だ。磯山病院に入院してからはピタッと収まったらしい。
柴谷と出会ったのは10日ほど前の事である。
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