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あ・・私に声をかけてきたのは私の隣の席の男子生徒だった。 さっき人目も憚らず泣く私をギョツした目で見てた・・彼だった。 「かくれんぼ?クスッ、君って面白いね・・あんなに授業中、堂々と泣く子、初めてみたよ」 うっ・・言葉が出なかった・・彼の言う通りだ・・あんなふうに人目も憚らず泣いてしまった事が今更ながら恥ずかしかった。 「白川さん、電車通学?もし、良かったら俺と駅まで一緒に――」 「良くないよ、千雪は俺と帰るから」 「「へ?」」 ・・何時の間にか圭人が私の後ろに立っていた。 「千雪、帰るよ、さっさと靴を履き替えて」 圭人は穏やかそうに頬笑みながら・・声は怒ってた。 私と圭人は少し距離を取りながら無言で歩いてた。 私と圭人の家は学校から歩いて20分くらいの所にある。 基本・・登下校は徒歩だ。 私はきびきびと足早に歩く圭人の横に並びたくなくて・・だらだら遅れて歩いた。 私と圭人の間には4~5メートルの距離が出来ていた。 まるで私と圭人の間に開いた今の心の距離みたいだった。 「千雪、なに、だらだらしてるの?もう少し急げない?」 家と学校の丁度、中間地点にある公園の入口で圭人が苛立たし気に振り向いた。 なんだか腹が立った・・怒りたいのはこっちの方だ。 私に嘘をついて美術部の部長の引継ぎがあるって言いながら女の人と会ってたくせに・・部長になったから放課後は一緒に帰れないって言ったくせに・・圭人の傍に行きたくなかった。 私はわざと5メートルくらい離れた所で足を止めた。 「は?なにしてるの?なんでそんな所で止まるんだよ?」 私の態度に益々、圭人は不機嫌になった・・私は圭人の顔を見ず俯きながら言った。 「・・・先に・・帰って」 「・・千雪?」 圭人が驚いたように私を見てる気配がした。 え?・・圭人が私に近付いてきた・・なんで? 圭人が距離を詰めるごとに・・私は後ずさりした。 「千雪、いい加減にしろよ、何、拗ねてんだよ?」 圭人は本格的に怒ってしまった。 圭人が怒るところを見たのは久し振りだった。 私の記憶が正しければ小学校の低学年のとき以来だった。 理由ははっきり覚えてないが・・・私が訳の分からない我が儘を言ったせいだったような気がする。 「さっさと帰るぞ・・今日は大事な話があるんだから」 圭人は私に近付くと有無を言わさず私の手首を掴んで引き摺るようにして歩き出した。 振り払おうにも圭人の力が強すぎて振り払えなかった。 大事な話がある・・圭人は言った。
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