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転校初日
転校初日、私は泣きべそをかいていた。理由はシンプル、新しい学校への道順をド忘れしたせいである。前の日に両親と車で下見をしてきたのだが、車窓から眺める道と徒歩で通行する道は全く違って見えた。
今、自分がどこを歩いているか分からない。学校の近くのはずなんだけれど、ほんの2~3本の道が分からない。ポケットからスマホを出して時間を確認する。始業時刻まで、あとわずか。初日から遅刻なんて、漫画でもあるまいし、どんなに叱られるか分からない。
「あー、もう!堀北高校はどっちよ!?」
叫び声が喉をつき、私はデタラメに小道を曲がった――その刹那。道に座り込んでいた誰かにつまずきそうになる。避けようとした私は、かえって盛大に転んだ。フギャ、と悲鳴のようなものが聞こえた気がする。
「あいたたた……もうサイアク……」
「あの、大丈夫?」
私が倒れていると、誰かが手を差し伸べて起こしてくれた。顔を上げて、えっと声が出そうになった。
男の子だった。耳を隠す長さの癖っ毛に、赤いリムフレームの眼鏡。丸くて大きな瞳は、内気そうに伏せられている。服は堀北高校の制服を着ていた。
私はぽかんと口を開けて、しばらく彼の顔を見つめていた。
「あの、本当に大丈夫?」
「えっ!? ああ、大丈夫、です……」
言葉の最後が消えていくのが自分で分かる。男の子の手を握るのは緊張したが、足が痛かったので彼の手を借りて立ち上がった。
次の言葉に困っていると、足元からニャーと声がした。見れば、黒白のブチ猫が緑色の瞳で私たちを交互に眺めている。彼が申し訳なさそうに言った。
「ごめんね、ブッチーと遊んでて人が来ると思わなかったんだ」
「いえ、私こそ急いでて、ごめんなさい。あの、キミは堀北高校の生徒だよね? 学校へはどうやって行ったらいいのかな?」
すると彼は、私が曲がってきた道に出て、交差点のあるほうを指さした。
「あの交差点を右に曲がって、大通りにぶつかったら左に行くと学校があるよ」
「ありがとう! じゃあね!」
「あっ、待って!」
彼が何か言ったようだったが、気にしていられない。何しろ遅刻するかどうかの瀬戸際である。私は全力で走り去った。
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