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<Insanity and sanity>
街はバベルの塔で埋め尽くされた。
バベルの塔。即ち今日でいう超高層ビルに対して、溝呂木(みぞろぎ)健一(けんいち)が揶揄して思うところ。人間たちの思い上がりと象徴、と。さらに溝呂木は請う。この繁栄にかまける空虚の都市に、シュールにも唐突に核弾頭が飛来してくれないか、とも。その思いつきは近頃流布するセカイ系的発想にも似ている。
セカイ系的発想。
日常の瑣末な出来事と世界滅亡などの大なる災禍、それらが同レベルにして同一線上で語られる発想がセカイ系。破綻の間の社会的事由は皆無。白か黒か。YESかNOか。存在するのは巨大な極と微小な極の対同士のみ。
その思想はフランスのさる高名な哲学者が言った「大きな物語」の終焉の一形態ではないか? という疑問符が溝呂木の中で浮かぶ気転はなかったが、兎にも角にも「些細な日常の状況」がほつれる何かを自らも期待はしてはいた。
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