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翌朝、鷹取は意を決して海と向かい合った。
空は昨日までの灰色が嘘のように燦然たる光を放っていて、海はきらきらと眩かった。
知っていたはずのその場所は随分と姿を変えてしまってはいたが、海風の匂いも肌触りも、確かに自分が育ったこの土地のものだった。
そして数隻だけ、ほんの数隻だけではあるが、紺碧の水平線には漁船が浮かんでいた。見慣れた漁船だった。
鷹取は海風を大きく吸い込んで、砂上を全力で駆けだした。
海はまるで何事も無かったかのようにたおやかな白波を立てて、淡い色に輝く砂浜を優しく撫でていった。
【了】
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