リコリスの咲く夜空のしたに

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 涙声の笹木の頬に軽く唇を押し当てて、航平は優しく肩を押し出す。ふたりの体が離れて笹木はホームに降り立つと、それを待っていたかのように列車のドアが閉まった。厚い扉の向こうの航平は右手を耳元に当てて、また電話する、とジェスチャーを交えて唇を動かした。  車両がゆっくりとホームを離れ、手を振る航平の姿が小さくなり、列車の赤いテールライトが見えなくなっても、笹木はずっとその軌跡を見つめていた。
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