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「……はい、純也は俺の兄ちゃんじゃ……」
そう言った航平の顔をしばらくじっと見つめていた男性は、ふっと緊張を解いて、
「そうか。どことなく、君の顔には純也の面影があるよ」
と、柔らかく笑った。
男性が座るベンチの隣を勧められて、航平はちょっと間を開けて座った。川沿いの木陰はいい具合に太陽の光を遮って、川面から吹き上がる風が心地良い。
でも、自分から声をかけたのにベンチに座り込むと、航平は急に居心地が悪くなってしまった。そんな航平の雰囲気を察したのか、
「まずは自己紹介をしようか。僕の名前は笹木だ。君は?」
「平野航平っていいます」
「航平くんか。夏休みなのに学校だったのかい?」
早く学校へ行け、と言った父親の言葉が耳に残っていたのだろうか。
「学校じゃのうて塾に。今度、高校受験じゃけえ」
広島弁丸出しで答える航平に、大変だね、と笹木は静かに返事をした。笹木から滲み出る雰囲気はどこか柔らかくて、この街にはない都会の香りが感じられる。
「笹木さんは? どっかの会社員なん?」
「ああ。君からすれば結構なおじさんだ」
笹木は航平に笑いかけてくれたが、航平はニコリともせず、
「……そんな人が、どうして兄ちゃんの墓参りに来たん?」
ぐっ、と笹木の喉が鳴った。
「笹木さんって兄ちゃんの友だち? 兄ちゃんとも年が離れとるように見えるんじゃけど? 兄ちゃんとはどんな接点があったん? 東京で知り合うたん? 兄ちゃんは五年くらい前に家を飛び出して行方不明になっとった。それが半年前にいきなり小さな骨になって帰ってきたんじゃ。笹木さん、もしかして兄ちゃんがなんで死んだか、知っとるん?」
畳みかけるように言う航平を笹木は「ちょっと待って」と押し留める。航平は戸惑って視線を揺らす笹木の瞳をグッと見つめると、一番聞きたかったことを口にした。
「……兄ちゃんの葬式の時、兄ちゃんの友だちらが『純也は男の腹の上で死んだ』ってこそこそ喋っとったんじゃ。もしかしてその男って、笹木さんのこと?」
「……どうして、そう思うの?」
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