リコリスの咲く夜空のしたに

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 じわりと涙がこみ上げてきて咄嗟に俯いた。その滲んだ視線の先には航平の左手が見える。節のあるしっかりとした薬指には自分のものよりも一回り大きな指輪が輝いている。  笹木は航平の肩に寄り掛かると自分の左手を彼の左手に重ねた。その手の甲に、ぱたっと雫が落ちると航平は何も言わずに頬を流れる涙を拭ってくれる。きっと彼は泣いている自分を心配しているのだろうが、笹木はこの嬉し涙をすぐに止めることは出来なかった。  やっと涙が止まって照れくさそうに彼に笑いかけた。航平も慈しむような笑顔を見せて笹木を優しく抱き寄せてくれた。  広島の平和公園の川岸のベンチで出会ってから十三年の歳月が流れた。  夏の太陽のような笑顔の少年は責任感と包容力のある魅力的な大人の男になった。時々、広島弁で甘えてくる可愛いところも残っている。対する自分だって髪にちらほらと白いものも出始めて、目尻の皺も深くなってきた。  それでもきっと……。このまま変わらずにこうしてふたりで過ごしていくのだ。  絶対に幸せになるとの誓いを守って、純也がいつかふたりを迎えに来るその日まで、こうして笑って暮らしていこう。  航平の左手が笹木の左手を優しく誘う。  天井からの小さな灯りに手をかざし、角度を変えるたびにキラキラと輝くふたつの指輪を、航平と笹木は肩を寄せ合っていつまでも眺めていた。 ―― リコリスの咲く夜空のしたに 完 ――
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