月曜日の特別展

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月曜日の特別展

特別展には、どこかの風景の絵がたくさん飾られていた。空の色、川の色、土の色。あとは家や橋。  一周して、戻ってきた。彼がまだ絵を覗きこんでいるから私は退屈で、絵に名前を付けていく。下に書いてある題名は無視。 春の午後四時の空と川、舟を浮かべたい涼しい夏の小川、これはさっきの春の絵を秋に描いたやつ、冬の午前十時と引き上げる舟乗りたち、残る濃い青が映る川の夕暮れ、曇り色を乗せた重たい川と建物、 「もう観おわったの」 「一周目はね」  気に入る名前はまだ付けられていない。 「この絵、どう思う」  彼が指さしたのは、空と川によくありそうな水色を、川辺の草や木に緑とか赤とか紫を、ぽんぽん乗せていったような絵だった。浮かぶ雲は丸っこくて、端が桃色に染まっている。全体的に桃色のベールがかかっているみたい。 「絵本みたい。明るいけど夕方の初めだと思う」  名付けるなら、春の終わりの無邪気な夕暮れ。これはちょっぴり気に入った。 「なるほど」  そのまま、黙られてしまった。「たかしくんはどう思ったの」  その答えは、構図がどうとか、遠近法だとか、なんだか難しくて、そういうところが凄いと思うのだけど、置いてけぼり。 彼がノートを見ながら話しているのに気づいて、そういえば彼は絵を見ながらいろんなことを書きこんでたんだ。 「この画家は生涯、住んでる場所の周りにある風景を徹底して見たまんまに描いたんだ。その絵もあの絵も、現実に在りそうな景色だろ。でもこの絵だけ現実感が薄いような気がして」  そこで初めて、ここにある絵がみんな、同じ人の描いたものだって気がついた。手に握っていたチケットを見ると、知らない画家の名前が書いてあった。知らないことだらけ。
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