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「勇者、実に素晴らしい! そうであろう? おぬしこそ、この世界の最強だ!! おぬしまでいなくなると、このゲームはますます歯ごたえがなくなってしまう!! 何しろ、分身体である我を倒した唯一の者だからな!!」
勇者はのろのろと頷いた。ゲームの駒として使えるから生かしておく、そう名言されたことに腹を立てるような余裕は、勇者にはなかった。マナベルを魔神の手から救い出そうとも、魔神と戦うために動こうともしなかった。
圧倒的な恐怖が、勇者を包んでいた。恐怖、そんな言葉ではまだ生ぬるいかもしれない。それは絶望、勇者から全ての意思を奪い取ってしまうほどの、絶望だった。勇者になすすべはなかった。今の魔神は、分身体の数十倍ともいえる力を有していた。勇者には、魔神の動きさえ見えないのだ。剣を突き立てようにも、どこにいるのかさえ分からないのではどうしようもなかった。勇者は全く何もできないまま、いやほとんど気がつくことさえできないままに、仲間を三人も失ってしまったのだから。
勇者は立ち上がり、歩き出した。
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