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迷路のようになっていた魔神の城の通路を、どこをどのようにして歩いたかは分からない。
でも気がつくと、勇者は魔神の城の門をくぐっていた。
勇者は振り返り、魔神の城を見上げた。入る時は五人だった。でも今は一人だけだ。
そう思ったら、初めてマナベルや仲間達の顔が浮かんできて、勇者は自然と涙をこぼした。
魔神の元から逃げ出した勇者は、二ヶ月後、故郷の村にいた。勇者は走って走って走った。魔神が追っ手をよこしたりしないことは分かっていた。でも、もしかしたら魔神の気が変わるかもしれない。何より魔神自身が気まぐれで追いかけてくるかもしれない。勇者は有り得るはずもない幻影におびえ、ただ逃げて逃げて逃げて逃げた。
勇者の名は、デューク=ギーナン。
かっては勇者と呼ばれ、世界の希望の一端を引き受けていた男だ。
今では――ただ魔神に怯え、恐怖する一人の男に過ぎなかった。
だけど――。
ざあっと風が吹いて、ピンク色の花びらが舞った。
ハッと目を開ける。手入れの行き届いたきれいな広場。何本もの樹木が、競い合うかのように枝を大きく広げている。デュークは木の下のベンチに腰を下ろしていた。
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