第二章 リシアの村と謎の塔

2/15
前へ
/135ページ
次へ
 それは良く晴れた、穏やかな日だった。辺りは優しく甘い花の香りで満ちていた。まるで一面、タンポポの花を上からまき散らしたかのように真っ黄色な花畑の道沿いを馬車がのんびり走っている。やがてその馬車は古くて大きな建物の前に止まった。おそるおそる外に出てきたのは、鞄一つを手に持った銀色の髪の少年だった。  少年は地面に降り立つと、きょろきょろと周りを見回した。馬車はゆったりと遠ざかっていく。少年はそれを見送ってかすかに心細そうな表情になったが、首を振ると毅然と顔を上げた。  ここは少年が育った村から馬車で二日の距離にあるリシアの村だ。ここらは穏やかな輪郭を描く山脈に包まれた、のどかな地方である。道を歩く村の人達が辺りを行き通っている。  少年の名前はソランといった。年齢は十三か、十四くらいに見える。背はあまり高くはないが、銀色の髪が印象的な少年だった。  しばらく、辺り一帯を眺めた後、ソランは意を決したようにひときわ大きな建物に向かって歩いていく。そして、その近くにあったベンチに座ると、ソランは大きな溜息をついた。  これからどうしようか?  それがソランにとって、当面の問題だった。
/135ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加