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「なんだ?」
「んふふふ…」
きょとんとした面持ちのハヤトへ、キョーコが含み笑いを浮かべたなり、窓に掛けられたカーテンを掴んでばさりと翻した。
翼のように広がったカーテンが、二人をまとめて包み込み、周囲の目から覆い隠す。
誰も見る者のない、ささやかな、二人だけの空間で、キョーコは驚いているハヤトの口元へ、その柔らかな唇を押し当てた。
「んむっ…!?」
「んっ…はぁ…」
「…キョーコ」
「えへへへ…しちゃった」
「やめろよ。学校なんだから…」
「じゃ、学校じゃなきゃいいのか?」
「…知らない」
「顔、赤いぞ」
「そっちこそ」
「そ、そうかな」
「そうだよ」
「…随分と晴れたな。暑くなりそうだ」
「もう九月なのにな。残暑ってやつかな…」
「冬はまだかな。なんだか待ちきれないや」
「キョーコ、寒いの好きだったっけ?」
「全然。でも、二人一緒なら寒くないもん」
「ああもう、離れろ。邪魔っけだ」
「いじわる」
「キョーコには言われたくない」
「あ、見ろハヤト」
「どうした?」
「蝉が飛んでったよ」
二人の新たな一日が、今日も始まろうとしていた。
了
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