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「なにをしてるんだ?」
エリスのあきれたような声に、黒髪の少年はわざとらしくマストの上で「伸び」をした。
「ふふ、まさかこの平和な時代に、人買いの船が港に来てるなんて、あの国の人間は知りやしない」
一度落ちた太陽が、姿をあらわし、はるか下に広がる海はきらきら輝く。その海をのろのろと海賊の船団が逃げていく。
「君の兄さんの子供たち、いくらの値段がつくだろうね?助けてあげないの?」
「…本部には連絡した。じき救出される」
エリスはデッキの手すりに手をかけ、遠ざかっていく船ぶねをみつめる。
穏やかな色味の髪を揺らす潮風が、少年の背丈ほどある髪もたなびかせる。
船のひとつから、火の手が上がった。次々に、小規模ながら、いくつもの船に爆発音。
「なに?!」
「誰だ?僕たち『空』の遊軍が制圧した物資船団をかっさらおうとるすやつは初めてだ」
少年のご丁寧な状況把握を、エリスが振り向きざまに睨んだ。
「アベル!」
「火の手はどれも小さいし、いまなら助けられるかもしれないよ」
エリスがためらっているのが、手に取るように分かった。
「貨物が『丸焦げ』になったら、ここまで飛んできた意味がないんじゃない?」
わずかに白い顔が青ざめる。そして、エリスは跳んだ。
「きみもひどい女だけど、それでも幸運は祈るよ。昼までには本部に戻ってね」
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