小鳥たちの主人(あるじ)

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「ああ、やっと終わったよ」 損傷が少なかった貨物と、「救出」した人間を船に積み込み本部に送る手続きを済ませ、アベルは埠頭でペットボトル飲料を飲んでいる、エリスの脇に腰をおろした。 「調査に時間がかかった。呼び戻してすまなかったな」 「べつに。でも君の十八番(おはこ)でもてこずるような相手、そうそうお目にかかれないからね」 岸壁から足をぶらつかせ、エリスはまだあけていないミネラルウォーターを取り上げた。 「珍しいね。取っておいてくれたわけ?」 アベルはキャップを外し、頭から水を浴びた。 「ほんとうに、水を飲まなくても苦しくないんだな。人間だったら、この渇きは耐えられない」 答えなかった。 「…なんで、エリスはアルザーが嫌いなの」 エリスも、答えない。あの日から、エリスはなにひとつ、自分のことは明かさない。 ゆっくり目を逸らし、アベルは海に顔を向けー 「あいつだよ」 エリスは視線だけを動かし、眉をひそめた。 「僕たちのアルザーを狙った、あいつに違いない。物資船を横取りしようとした人間。叩き潰さなきゃいけない」 アベルは海に向かい手をかざす。 「この海と空を封じるよ」 人間が造った、海の船、空を行く船がひしゃげ、音をたてて崩れた。人間も、船もなにもかも、海へ落ち、波に打ち付けられ、壊れていく。 エリスはその様を睨むようにして見据えていた。潮と、粉塵と燃料が燃えて弾けるさまを。
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