王子様、現る。

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「俺、こんなことを言うのもなんですけど、演劇サークルではくすぶっていて。脚本を書いてみたんですけど、みんなからは、キャラが死んでるって言われて、そこから、あまり演技も振るわなくなってきました。そこで、サイトに載っていた脚本を見て、頭の中でそれぞれがどう立ち回るかとか、しっかり描かれていて。……それで、一緒に何かやれたら、嬉しいなって」  とここまでの台詞を脳内の音声ファイルに保存した。今日から、これが私の子守歌だ。 「ああ、あれ、いいですよね。沙織が書いたんです」 「そうなんですか、一緒に勉強させてください」  井川先輩と目が合う。透き通っていて、大きい。  心の中で私は、後ずさりをしながらご尊顔を拝んだけれど、現実の私は、その場で硬直するのみ。早苗に必死に助け舟を出す私の目は、泳いでいるどころか、溺れているのだろう。  早苗は、だらしがないなあ、とでも言いたげな呆れ顔を一瞬向けて。 「試しにあの脚本で、実際に撮ってみたりしますか?」 「えぇ、あれは、サイトの注目度が上がればってことで載せるやつで」 「この脚本を演じてみませんかって文句で宣伝してたんだから、あれをやらないと、むしろダメでしょ」  たしかに、それも一理ある。けれど、恥ずかしすぎる。 「そうだ、沙織が、女の子やってみなよ」 「無理っ! 演技できないし。告白されたら、きっと死ぬっ!」  とり乱す私。テーブルの上で、メロンサイダーが跳ねた。不意に我に返り、頬を血がかぁっと駆け上る。 「いや、あの、今言ったことは忘れてください」  私、自意識過剰かよ。仮に本当に演技したとして、その告白さえ、演技なのに。
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