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分かってしまった。
家に戻る。メールを確認すると、早くもさっき撮った映像がクラウドで共有されていた。「とりあえず未編集のものを何度も見て、何が納得いかないか、ちゃんと固めて」と言葉が添えられている。こいつ、エスパーだ。
事実、納得は行っていない。大きなため息をひとつついて、机の引き出しから駄文を連ねたノートを取り出し、文面に溺れる。
『ど、どうしたの。○○くん、急に呼び出したりなんかして』
うん。そこで、早苗もどもっていた。もじもじする演技も上手かった。だけど――
『あの、□□さん。その……』
井川先輩に至っては、完璧だった。誰からも一目置かれる存在が、目の前に好きな人がいるから緊張している、というのをまさに体現できていた。
何が違う。美男美女で、絵としては最高なのに。
……あれ? 私、そんなの、求めてたっけ?
妄想が、目の前で井川先輩と早苗が演じると違った。
妄想は、入り込んで、自己投影して楽しむためのもの。だから――でもそれって、すごく自分勝手だ。自分で自分が嫌になって、私は、ぱたりとノートを閉じた。
ベッドに寝転がって真っ白な天井を見上げる。
私は、最初から――と、出来上がったうんざりする答えを頭の中で唱える。そこで、出来過ぎた話のように、早苗から電話がかかってきた。
「もしもし」
正直、出たくはなかった。
「どう? 納得行かない理由、分かった?」
分かったけれど、それを言いたくない。
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