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「いいや、あれで、いいよ」
「あたし、そうやって濁されるの、一番イヤなの。どんな馬鹿げていても聞くからさ。あそこでは井川先輩もいたから、流したけれど。はっきり聞いておきたいの」
私のことを思っているのか。作品を納得がいくものにしたいからなのか。いいや、その両方か。早苗の声は真剣だ。
言い逃れ、できないなあ。
「じゃあ、言うね。あのね、この脚本の、主人公は、私なの。私みたいに、野暮ったい眼鏡をかけて、前髪で表情を隠した、自信のない人間」
ああ、なんて自分勝手な答えなんだろう。
「それ、脚本見たときに思ったよ。あれはさ、最初っから沙織のための物語だったんだよ。だからさ、沙織に演じてみない? って言ったの」
「でも、私は――」
「明日から、沙織が演じて」
えっ、とひとりの部屋で大きな声が出た。
「沙織が分かったなら、もう、そうするしかないでしょ」
そう言われたら、私も断り様がなかった。
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