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青い春、芽吹く。
制服に久々に袖を通す。それだけで、私の役作りは完璧だった。野暮ったい眼鏡、表情を隠す長い前髪。いかにも自己否定感が強くて、自分で自分をブスにしている。って余計なお世話だ。
私と井川先輩が見つめ合って、桜の木の下で。今自分が置かれている状況に、生唾をごくりと飲み込んだ。これを三回繰り返す。流石にげっぷが出そうになる。
カメラの前で、井川先輩の前で、それだけでもじもじとした演技に拍車がかかる。というか、もはやただの素である。
「ど、ど、どうしたのっ。柏木くん、急に呼び出したりなんかして」
サイトに脚本を上げる際に付けた役名で、井川先輩を呼ぶ。声は上ずって、脚本よりもひとつ余計にどもった。
「あの、江川さん。その……」
そして、今度は私の役名が呼ばれた。既にヤバいけれど、この後は、もっと。どもった後に、ちらちらと目を泳がせる演技が、たまらなくいじらしい。
「江川さんのことが、ずっと好きでした」
うああああっ、と心の中叫んだ。でもこれで平静を失ってはいけない。まだまだ、とっておきが控えている。
「えっ、でも……、私なんかよりも、二宮さんの方が……」
けれど、抑えきれない動機が、声を上ずらせて。合間に息継ぎが入る。
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